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Selfishly

Selfishly

追跡者 7章


 
 「清々する」 そう呟かれたエドワードの言葉が、ロイの胸を深く抉りながら、
飛び込んできた。
 エドワードがここ最近、ロイの執着振りに戸惑っていたのは、判っていた。 皆と自分の見合い話に華を咲かせて入れるのも、自分の事を
気にかけてくれてない証拠のようで、聞こえてくる会話に、
重く塞がる暗い感情が、心に拡がっていく。
 そして、決定打のように呟かれたエドワードのセリフ。
 ロイは今更ながら、自分達の始まりを深く後悔する事になった。
 興味を引いた…などと、自分の行動に対する誤魔化しなどしないで、
ちゃんと認めてやれば良かったのだ、自分の真意に。
 が、素直に認めるには、ロイはエドワードとは違いすぎていた。
 歳も、経験も、地位も、自分達は違いすぎ、離れすぎていた。
だから、素直に認めれなかった。 14歳も離れている子供に、
あろうことか、この自分が、心惹かれていたなどとは。
 認めていたからと、どうなるわけでもなかったかも知れない。
 けれど、少なくとも、向かい合って話し合える関係を、
築いていけたかも知れないのだ。 相手に、鬱し柄れない程度には。

 だから、エドワードが家に来てくれても、触れなかった。
 もう2度と、エドワードの了承無しでは、触れはしないと誓って。
遅くなりすぎたかもしれない。 それでも、今からやり直せる事があるなら、
少しずつでいいから、取り戻して、やり直して行きたいのだ。 
 関係を修復したからと、自分の都合の良いようにばかりには、
進まないかもしれない。 唯の、上司と部下で終わることになる事だって、
考えられるのだ。 それが嫌だと思うなら、真摯に口説いていくべきだ。
 手に入るまで、何度断られようとも。
 今までの自分は狡過ぎた。 本心を告げずに、相手から与えられる事だけ欲し、
考えるべきこと、伝えるべき事を見てみぬふりをしてきたのだ。
 エドワードが、自分の変化に戸惑うのも当然だ。何も伝えておらず、
何も明かして来ずにいたロイが、いきなり、独占欲を剥き出しにすれば、
驚かれ、引かれて仕方が無い。
 錬金術の世界の理で言えば、手に入れるべく代償を払わなかったロイには、
等価交換に値するものが無いということだろう。

 夕刻から雲行きの怪しくなってきていた空模様は、誰かの気持ちを
現しているのか、大粒の水滴を撒き散らしてくる。 
 ロイはホテルの帰り道を、送迎の車を断って歩いている。
 激しくなる雨は、ロイを責めるように雨脚を強くしていく。


 ずぶ濡れになりながら家に戻ると、ふと気づいた事に眉を顰める。
 ここ最近、灯りの点らない家に戻ってきた事がなかった。
『出かけてるのか?』
 会食だと告げて出たから、弟の所へでも行っているのかも知れない。
 今のロイの心情からだと、その方が良い気もする。
 心に決めたとは言え、目の前に好きな者が居て、何もせずにいるというは、
かなりの苦痛を負う事なのだと、一緒に暮らし始めてから、思い知らされている。
 今日は、少々不安定になっている自分の感情を思えば、エドワードには
安全なところで居てもらう方が良いだろう。

 中に入ると、ロイが歩いた廊下に、水溜りが点在して行くが、
どうせ誰もいないのだ、片付けるのも自分なら、構うものかと、
リビングへ進んでいく。 
 夏にはまだまだ遠い季節だ。 ずぶ濡れで体温がどんどんと奪われてる状態では、
手っ取り早くアルコールでも流し込んで、風呂で温もらないと、
風邪をひくことは免れないだろう。
 悴みきった手で、電灯のスイッチを探そうと手を伸ばすと、
急に上がった叱咤に、手が止まる。
「点けるな!」
 驚きながら、暗闇を透かしてみるようにすれば、ソファーの上で、
両足を抱えるように蹲るエドワードの姿がある。
「鋼の…、出かけてたんじゃなかったのか?」
 茫然と呟いた言葉を拾い上げると、エドワードが語気強く言い返してくる。
「何だよ、出かけてたほうが良かったのかよ」
 剣を含ませた口調に、ロイはエドワードの様子がおかしいことに、
漸く気が回る。
「いや…、そうではないが…。 なら何故、電灯も点けてないんだ?」
「別に良いだろ。 今日は点けたくない気分だったんだ」
 それだけ言うと、黙り込んでしまった相手を誰何したい気持ちが逸るが、
今の自分の状態では、先に身を整えないと不味いだろう。
 浴室に行こうと思いついて、行動に移そうとした寸前に、
エドワードが顔を上げる気配がする。 暫く、ロイを凝視している気配が
伝わってきて、動くに動けなくなる。
「何だよ、あんた。 俺に言っといて、アンタの方が変じゃないの?
何でそんなに、ずぶ濡れなわけ?」
 暗闇でも夜目が利くのか、エドワードはロイの状況を、しっかりと
見抜いているようだ。 
「… そんな気分だっただけだ」
 先ほどの仕返しのように、同じ言葉を吐くロイに、エドワードは
何がおかしいのか、乾いた笑い声を伝えてくる。
 
「へんな奴だよな。 あんた、この時期に、そんなけ濡れて寒くないのかよ?」
 急激に強まる雨脚のせいで、気温がどんどんと下がっていく。
 エドワードは、フルリと身を震わすと、訴えかけるように話してくる。
「俺は寒いよ。 なぁ、あんたが温めてくんない?」
 突然のエドワードの誘いに、ロイは言葉も出ずに、彼がいる方を
じっと見る。 どんな表情で、そんな言葉を吐いているのかは、
彼ほど夜目の利かないロイには見えないし、読めない。
 が、その言葉が、あきらかに誘い文句なのは、伝わってくる気配で、
十分にわかる。
 ロイは、口に溜まってくる唾を嚥下する。 危ない兆候だ。
 理性で留めていたものが、あきらかに色を含む誘いの一言で、
あっさりと、その錠を外されそうになる。
 躊躇っているロイの様子に、エドワードがからかうように言葉をかけてくる。
「どうしたんだよ? いつもなら、あんたの方がしつこい位に誘ってくるんだろ? 
 それとも、もう飽きた? 」
 そんな言葉で挑発されれば、我慢に我慢をしていたロイの理性が、
振り切れそうになる。 頭の中は沸騰しそうな位に熱さを伝え、
先ほどまで凍えそうだと思っていた身体に、灼熱の焔が点る。
 押し黙っているロイに焦れたのか、エドワードは暗闇でも惑う事無く、
ゆっくりとロイの方に近づいてくる。
 目の前にまで来て立ち止まると、黙り竦む男を煽るように、ゆっくりと伸ばした手で、
ロイの頬を撫でる。
 その瞬間、電気に触れたように、ビクリと身体と心が跳ねる。
「あんたも、冷たくなってんじゃんか。 いいよ、俺が温めてやるから」
 そう言いながら浮かべられた笑みが、余りにも哀しそうで、艶っぽくて、
ロイは相手も濡れることを気にかける余裕もないままに、
頬に置かれたエドワードの手を引いて、抱きしめると、激しい口付けを始める。 
 1度触れてしまえば、自分が立てた誓いなぞ、泡のようにはじけて消えていく。
 抑えに抑えていた激情は、今やっと抜け出れる方法を得れて、
歓喜したように身を震わせて飛び出していく。
 相手の息を止めるかのような強引な口づけが、エドワードの呼吸を
忙しなくさせるが、止めさせるどころか、強請るように首に手を回して、
さらにロイを煽る。
 もう、ベットに行く余裕も浮かばない。
 二人は獣のように床に這いつくばって、互いを貪ることだけに熱中してく。
 水気を吸って張り付く服を、互いに急かせるように、相手の服に手をかる。
 邪魔な布を取り払うと、相手の身体の隅々まで、確認せずには
おられないとでも言うかのように、愛撫の手を動かしていく。
 ぷっつりと立ち上がった果実を、捏ねるように指を動かすと、
エドワードの嬌声が上がる。 
 反応が返る箇所を、今度は執拗に唇で吸い上げる。  
 ねっとりと舌を這わすと、果実を軽く齧ってやる。
「ああっ…」
 嬌声とも、喘ぎ声とも思える吐息が、エドワードの喉から、
歓喜と共に漏れてくる。
 ロイは、我慢できずに肌に吸い付き、紅い刻印を、至るところに付けては、
所有印を刻んでいく。 今までは、付けないようにと気を配っていた為に、
1度として、この身体に所有印を刻んだことはなかった。 
でも、今日は我慢が出来そうもなかったのだ。
 この身体に、自分の身体の下で悶える少年に、わからせる為に、知らせる為に、
ロイは、わずかな隙間も残さない勢いで、自分の印を刻み付けていく。
 
 臍の近くにまで顔を降ろすと、エドワードの方が我慢しきれなくなったのか、腰を揺らしながら、ロイに強請る仕草を見せる。
「なっ、なぁー。 はやく…そこじゃなくて」
 哀願する声は、焦れたように責め立てる。
「そこじゃなければ、どこがいいんだい」
 からかいを含みながら、焦らすようにゆっくりと舌を這わす。
際どい部分まで近づきながらも、決して触れようとしないロイの舌の動きに、
エドワードが鳴声を上げながら、強請ってくる。
「いじわる…意地悪すんなよ! 」
 悲鳴のように上げられた声に、ロイは満足すると、さっきから、
しっかりと主張をしているエドワードの分身に、熱い息を吹きかけるように、
囁いてやる。
「おやおや、こんなに泣いて。 待たせすぎたかな?」
 吐息を吹きかけられ、期待に震えるそこは、ドクリと吐き出しながら、
反応を返す。 それを、さも愛しそうに、ゆっくりと丁寧に、
舌で嘗め上げてやる。
「あっあー」
 歓喜の嘆息を、エドワードが上げる。
 望みの快感への前哨戦が始まると、エドワードは掻き抱くように、
ロイの頭に手を添える。
 快感に素直に反応を返すように躾けたのは、ロイだ。 が、
それでもエドワードは、いつも情事の最中であっても、
どこか冷めた部分があり、まるで快感を感じている自分を分析しているようなところがあった。 
なのに、今日のエドワードは、情事に溺れていると言って、間違っていない様子を見せている。
 相手の反応は、ロイの心理にも大きく影響を与える。 興奮がいや増すのを感じながら、
熱心に相手の反応を示させる為に、ロイは口内に含んだモノを、
いつもよりきつめに扱き上げる。
「やっあっあぁー」
 甲高い声が迸ると、更に追い上げる手管を早くする。
 先を齧りながら、袋を揉みしだくようにしてやれば、止まらない喘ぎが、
延々と上がってくる。
「っくぅ…、 あぁ、  あんん」
 エドワードの上げる声に比例して、口内のモノも質量を増していく。
 時たま、足を引き攣るようにしているのを見れば、そろそろ限界に
近いのだろう。 
「ほら、エドワード、我慢することは無い。 先にいきなさい」
 舌で巻き付けながら、きつめに吸い上げてやれば、大きく上げられた声を
共に、エドワードが自身を解放する。
「っう…、あああぁ」
 長く尾を引く声を上げながら、ビクビクと身を震わせながら果てる、
エドワードの痴態に、ロイは満足そうに、吐き出された蜜を飲み干す。
 ガックリと脱力して、荒い息を吐き出している間も、容赦なく吸い上げて、残りの1滴も残さぬように絞り上げる。
 それに、ビクビクと身を跳ねながら返される反応が、更にロイを調子付ける。

 激しい衝撃に、薄い胸を上下させながら、快感に浸っている瞳を
覗き込みながら、ロイは被さるようにして、深い口付けをする。
 苦しくなった息を、大きく口を開けることで補おうとするが、
隙間から差し込まれた舌が、それを邪魔するように動く。
「んっ…、ちょ、ちょっと、ま…てよ」
 切れ切れに告げられる抗議の言葉も、巻きつく舌の動きで、
満足に告げられない。 くぐもった鼻声は、ロイの嗜虐心に訴えるものが
あって、苦しがっていても、なかなか離してやれない。
 弱弱しく自分の胸を掻いてくる相手の仕草で、漸く満足したように、
エドワードから少し離れて、相手の息が整うのを、窺うようにして待つ。
 上から覗きこんでいるロイに、抗議のように睨むが、紅く色づいた目尻では、逆効果だろう。
 案の定、ロイは意地悪げに目元に口付けを落とすと、エドワードの耳元で、囁きを吹き込む。
「どうだい? 君は十分温まったんじゃないかな?
 今度は、君が温めてくれるんだろ?」
 瞬間、さっき交わした会話の内容を思い出し、色づいていたエドワードの
頬が、更に色を濃くさせる。
「どうしたんだい? それとも、さっき言っていた事は、嘘だったのかな?」
 甘い声で囁く言葉に、責めの色は微塵も無い。 ロイにしてみれば、
からかいのネタにしているだけで、決して、エドワードに何かを
期待しているわけでもないのだろう。 情事の最中の睦言の一つ程度なのだ。
 それが証拠に、ロイは次の手順に進むべく、触れる手を下げていく。 
先ほどからエドワードの足に当たっている、ロイの分身も、自身の解放を
伝えるべく、固く反り上がっている。
 
 エドワードは、整った息を再度、大きく深呼吸すると、ゆっくりとそれを
握り締める。
「エドワード!?」
 目を瞠り、驚きを隠せないロイの表情に、してやった気がして、
エドワードを奮い立たせる気力になる。
 そして、覆いかぶさっているロイの片側を押して、形成を逆転させると、
静止の声を上げるロイを無視して、ゆっくりと口に含んでみようとする。
「エドワード! 別に、そんな事はしなくていいから」
 慌てるロイの腰を押さえつけながら、口内に納めるべく奮闘をするが、
いつもして貰っているようにはいかない事に、悔しさと共に臍を噛むような
気持ちになる。
 口内に納めれない部分は、両手を使って擦り上げる。
 オートメイルの手の平を使うには、力の加減に気をつけないといけない。
そのせいか、どうしてもたどたどしくなる手つきが、力の緩急をつけるのか、
ロイの息が乱れるのに気が付いた。  
 ロイがいつも熱心にこうしてくれていたのを、エドワードはいつも不思議に思って受けていた。
 同じ性を持つ者同士で、何がそんなに面白いのかとも思っていた。
 でも、今なら少しだけ解る気がする。 自分の口の中で、手の中で、
震えるようにして喜びを伝えてくるそこは、素直で愛しいと思うから。
 段々と、大胆になってくるエドワードの口淫に、ロイの息も次第に
切羽詰まったものになってくる。
 じゅる、と音を立てて吸い上げられると、腰から生まれた快感が、
背中を這い上がって、脳髄まで痺れたようになる。
「も…う、い・・いから、離しなさい、でないと…」
 耐えている声が吐息と共に伝えられてきても、エドワードは口に含んだまま、
首を横に振る。 それが更に刺激を生んで、ギリギリまで耐えていたロイの
忍耐を超えて、意識を飛ばしてしまうのに十分だったようだ。
「くっ…、あぁ…ぁ」
 耐え切れずに吐かれた声は、苦悶を思わせるほどの艶を含んでいて、
エドワードは吐き出された濁汁を飲み干しながら、うっとりと聞きほれてしまう。
 ロイは、エドワードに声を上げさせるのも好きで、よく苛んで、引っ張り出すのは、
こんな気持ちになるからなんだろうか。
 咽ながらも、喜びも含んだ達成感で、エドワードの心はざわめかす。

「ほら、だから言ったろ」
 咽て、咳き込んでいるエドワードに、喜びを隠しようも無いロイの
労わりの言葉がかけられる。
 ゆっくりと背を撫で上げていくれている手の平は、エドワードの咳が
落ち着いていくに従って、欲を滲ませた動きになっていくが、
新たに生まれる快感に、逆らう事無く浸っていく。
 いつもより、ロイが感じられるのは、多分、ロイが変わったからではないはずだ。 
ロイは最初から、常にエドワードを抱くときには、優しく丁寧だったから。 なら何故かと問えば、自分が変わったからとしか言いようが無い。

 夕刻、ロイと女性の姿を見たときから、エドワードの中には、
今まで知らなかった感情がわき上がってくるのを、どうしようもないまま、
暗闇で耐えていた。 不快で、自分の心をささくれさすこの感情が、
何と呼ぶものなのかは、エドワードにはわからなかった。 
そして、わかなくとも良いとも思っていた。 
 自分達の関係は、一過性のもので、双方が納得した結果を得れば、
終わる関係なのだ。 エドワードには人肌の温もりを、そして、
ロイにとっては、毛色の違う遊び相手の一人として、
時期がきたら後腐れなく終わる…終わらせなくてはならない事なのだ。
 なら、今生まれているこの感情は、それを妨げるものに、きっとなるはずだ。 
だから、今なら消せるし、捨てれるうちに、エドワードは自分の中に
生まれた新しい感情を、捨てる道を選んだのだ。
 ロイに微笑まれていた女性を、本の少し、羨ましいと思った気持ちを、
自分から離れていくロイを思って、寂しいと思った自分を。
 そんな色々な気持ちがごちゃまぜになって、自分の心を酷く不安定にさせている。
 こんな気持ちは、今まで持った事も、感じた事も無い。
 だけど、持ってよい感情ではない事を悟れた。
 だから、無くなればいいと思った。 消えてしまえばよいと。
 けど、一向に無くならないどころか、どんどんと大きく、深くなっていく。
 なら、忘れてしまえば良いのだ、こんな気持ちのことなど、
考えも出来ないほど。

「ああー、」
 また口に含まれて、強い快感を送り込まれると、止めようの無い声が上る。 1度開放して、感じやすくなっている身体は、ロイの意図した動きに、
簡単に火がついたようになる。
 既に次の開放を強請るように、震わせるそこを、注意深く刺激を
与えすぎないようにしながら、ロイは後ろに潜り込ませた指を、
意図を伝えるように、収縮するその周囲に這わせるように動かす。 
 トロリと期待を吐き出すように、反応したそこを、根元から
きつめに絞って、もう一方の手を使って、ゆっくりと侵入を始める。
「ひっあっ」 
 思わずと言ったように上げられた声に、ロイは宥めるように前を嘗めて
慰撫してやる。
 焦らず時間をかけて根元まで突き進ませると、反応を見るようにぐるりと
指を回す。
「んんっ、  あっはぁ」
 息を詰めるようにして耐えている様子が、可愛すぎて、ロイは
我慢しきれなくなったように、喘いでいる口に深い口付けを落とす。 
「んんんっ、  はふはふ」
息苦しさにか、無意識に首を振り、呼吸を取り戻そうとしているエドワーに、
ロイは夢中で顔中に軽いキスを落としていく。
 そのロイに答えるように、涙で滲んだ瞳を向けて、エドワードが
はにかむ様に笑みを浮かべて、ロイの胸に額をこすりつけてくる。
 そんな情事の間の些細な仕草も、ロイには信じられない位の驚きで、
胸が締め付けられる程の喜びを与えてくれる。
 もっと妖艶に誘う女性もいたし、あからさまな媚態を見せるものもいた。
 けれど、その誰をとっても、エドワードの笑み以上に、ロイを喜ばせる事が
出来た者はいなかった。
 例え、最初がどれだけ悪くても、もう今更、エドワードを手放すことも、
離れる事も、今の自分には不可能だとも思う。
 
 心など最初から欲してなぞいなかった。 決して、手に入らないものを、
駄々をこねるのは、子供だけだ。
 だから、身体だけで構わないと思った。 一時だけでも、共有できる時間を
持つ事だけでも、自分にとっては過ぎたことだと思っていたから。
 なのに、この子供は、ロイの心を鷲掴みにして、その決心をたやすく
翻させていく。 ロイの矮小な願いなぞ、聞き届けもしないかのように、
ロイを揺さぶり、翻弄する。
 気が付けば、身体だけだと大人ぶっていた自分は、ただの我侭な餓鬼に
まで、落ちていた。

 笑みも、怒りも、哀しみも。
 捲きつく金糸の1本さえ。
 見開かれた瞳の、視線の行方まで。
 吐かれる罵倒の言葉さえ。

 全て、自分に向いてくれないと嫌だと思うほど。
 馬鹿で、愚かで、どうしようもない位、青臭い餓鬼に…。

「ロ…イ、 も、もう…」
 送り込まれる快感に耐え切れず、開放してくれるように強請るエドワードに、ロイは愛しそうに、優しく口付けを落とし、両足を抱えると、自身も
限界に近かった分身を、ゆっくりと進めていく。
「あああー」
 迸らせる歓喜の声に、ロイの下半身も、煽られるように大きくなる。
「くっ…、はぁはぁ」
 荒い息を付きながら、弾けそうになった衝撃をやり過ごすと、
際奥を目指して、腰を進めていく。
 それだけでも、かなり感じているのか、ロイに回した腕の手の指が、
背に食い込んでいる。 微かな痛みが、更にロイの興奮を呼んで、
ロイは途中から、慎重さをかなぐり捨てて、開かせていた足を更に
持ち上げて、一気に際奥まで突き入れる。
「ひっ…、あっ、くぅう」
 息を止めて耐えるエドワードが、下腹部に力を籠めると、それはそのまま、
中にいるロイを締め付けてくる。
 そして、納めきって、気を抜いたところを衝かれた事もあって、
あっさりとロイも持っていかれる。
「くっ…」
 惜しむように、胴振いをしながら、残りを吐き出す為に、数回腰を突き入れる。
 嬉しそうな嬌声を上げて、エドワードも張り詰めていたモノを、
突き抜ける快感と共に吐き出した。

 暫くの間、二人とも荒い息を吐き出して、重なり合っていた。
「全く…、一体どこで、あんな手管を覚えてきたのやら」
 意図せずに、あっさりと持っていかれたのが、よっぽど悔しかったのか、
エドワードの鼻の頭を齧りながら、そんな心にも無い文句を言う。
「あんだよ…。 イッたのはあんたの忍耐が未熟だからだろ。
 もうちょっと、修行してから出直せば?」
 皮肉に嫌味で応酬して、エドワードは優越感に浸りながら、
にんまりと笑みを送る。
 優しく甘い睦言より、こうやって言い合うほうが、自分達らしい。
優しく、甘い関係など、自分達には不似合いだし、不必要だ。
 そんな事を思いながら、エドワードが寂しい思いを抱いていると、
ロイが優しく耳たぶを啄みながら、囁いてくる。
「それは、2戦目のお誘いかな?  なら今度は、君に笑われないように、
きっちりと修行させてもらおうか…君の身体でね」
 艶やな笑みを浮かべながら語られた言葉に、エドワードも呆れたフリをしながら、
ゆっくりとロイに腕を回す。
 
 外の激しい雨音は、その勢いをどんどんと強めているが、中の二人には、
余り気にはならないらしい。
 重なる影は、激しい雨脚を弾くほどの動きを繰り返し、時折上げられる嬌声は、
雨音さえ霞んでしまいそうに響いている。
 どれ位の時間、その光景が繰り返された居たのかは、天候の悪いこんな日では、中に閉じこもっている二人にしか、わからない事だろう。 


「うー、だるい…」
 ベットで唸り声を上げているエドワードに、私も腰が痛いよと、
年寄りくさい言葉を返しながら、持ってきた水を手渡してやる。
「ちょぉ、年甲斐もなく頑張りすぎじゃないんか」
 軋む体の悲鳴に、エドワードが恨みを込めて、呟くと、
「喜んでいた君に言われたくないね。 君こそ、私を年寄り扱いするのなら、
もう少し、労わりを見せてくれても良かったんじゃないのか?」
 そんな風に言いながらも、満足気にエドワードの肩を抱いてくる様子からは、労りが必要な様子なぞ、微塵も見受けられない。
「はぁー、あんたこんな調子だったら、結婚したら、相手の女性に愛想付かされるぜ」
 ふいに言われた言葉に、ロイは不愉快そうに眉を寄せ、つい尖った口調で、
強く言い切る。
「そんな心配は、全くの見当違いだから、必要はない」
 不機嫌に言い切られた言葉に、エドワードが怪訝そうに頭をもたげて、
ロイの表情を窺う。
「えっ…? でも、あんた結婚するんだろ? 深窓の令嬢とかと」
 今回の話が、エドワードの耳にも入っているだろうとは、思ってはいた。 が、それに対して、エドワードが何かのリアクションを起すような事も、
問うてくるような様子も見せなかったから、もしかしたら、
彼は知らないのだろうかとも思っていた。 
 が、それは結局、ロイの都合の良い解釈で、エドワードには、
気にする程の事もなかったと、言うだけなのだろうか…。
 絶頂から突き落とされたような気分で、ロイは忌々しそうに、
返事を吐き出す。
「確かに話はきていた。 きていたが、断った。 今日の夕刻に、
きっぱりとね」
 エドワードが、驚いたように起き上がり、信じられないモノを
見るような目で、ロイを見つめている。
「何故、そんなに驚くのかね? 私がその話に、ホイホイと乗るのが
当たり前だとでも?」
 剣を含んだ言葉に、思わず口篭りながら、エドワードが返事を返す。
「えっ…、いや、別に…。 で、でも、結婚すれば、昇進できるんだろ?」
 ロイの目指す目標には、一足飛びに近づけるのだ。 そんなチャンスを、
ロイが棒に振るなど…。
「昇進…? そんな事の為に、自分の一生を棒にふるのか?
 それに、結婚する女性はどうする? 自分を愛しても、省みても
くれないような夫を持って幸せだと?」
 薄暗い室内で、ギラつくような閃きを浮かべて、エドワードを、
ヒタリと見据えてくるロイに、エドワードは、気迫に押されるように、
座ったままで後じ去る。
 外では酷くなる雨脚が、とうとう雷鳴まで呼び起こしたのか、
遠く稲光を走らせている。
 外の雷光に照らせれて浮かび上がるロイの表情が、余りにも悔しそうに、
哀しそうに歪んでいるのに、エドワードの胸が痛む。
「確かに、そんな手段も1つの案だと、考えていた時期もあった。
 けれど、今の私には、到底そんな気持ちにはならない、いや、なれるはずがない」
 一息に言い切ると、エドワードを見つめていた視線を外す。
 そして、苦笑とも自嘲とも見える笑みを浮かべて、エドワードに視線を
戻すと、ロイはゆっくりと問う。
「何故、そんな気持ちにならなくなったのか、聞きたいかね?」
 問うたロイに、不穏な気配を感じて、エドワードは知らず知らずに、
首を横に振って答える。 何度も、何度も。
  
 外では、雷が近づいて来たのだろう、雷光と共に、大きくなる雷鳴が
響いている。
 首を横に振っているエドワードには構わず、ロイは答えを話し出す。
エドワードに聞かせる為に。

「好きになったからだよ。 愛してしまったからだ、君を」

 とても、愛しい人に、愛を告げているような表情ではない。 
 苦しみを吐き出す、咎人の懺悔をする表情で。
 答えぬ神に、縋る祈りを捧げている人のように。
  哀しみを湛えた表情で、ロイはエドワードに告白をする。

 それを受け取りたくないかのように、両手で耳を塞ぎ、顔を伏せたエドワードに、
ロイは静かに近づいて、その手を外させると、その手に口付けを落とし、
真剣な、真摯な表情で、エドワードに告げる。

「エドワード、君を愛している。 この気持ちに答えては、貰えないか?」

 一際明るい閃光が走ると、空気を振動させる程の音を鳴り響かす。 
 エドワードは、『どこかに落ちたな』と、そんな事を思いながら、
強く自分を抱きしめる男の、繰り返される言葉を、ぼんやりと聞いていた。 

 一体どこで、掛け違えてしまったのか?
 自分の心に落ちている形跡を辿っていく。 
 拾い上げる程にわからなくなる。
 掴んだものは、手の指をすり抜けて消えていく。

 それでも、必ず、真実に至る道があるはずだと、自分達が辿った道筋を、
何度も何度も追いかける。
 追跡しているのは、自分なのか、それとも、見えぬ真実が自分を追いかけ、
追いつこうとしているのだろうか…。
 


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